よくネット上で「洋楽を聴きまくるのは英語の上達に効果がありますか?」「英語の学習に洋楽は効果ありますか?」といった質問を見かけるときがあります。
中上級者が更に英語スキルを上げるために洋楽を使うのは効果がありますが、初心者が洋楽を聴きまくってもリスニングが上達することはまずありません。
今回は、英語初心者が洋楽を聞きまくっても英語を聞き取れるようにはならない理由について説明します。
正しい発音(アクセント)がわからない
よく考えるとわかるのですが、歌詞が楽曲と共に歌われている時点で元々のアクセントはかなり失われています。
例えば、”desert”(砂漠)は先頭にアクセントが、”dessert”(デザート)は後ろのほうにアクセントがあります。
でも歌詞が曲に乗ってしまうとアクセントは曲優先となってしまうので、本来の発音を知ることができません。
初めて出会った単語を歌詞で覚えてしまうと、歌のイメージで発音を覚えてしまい、実際の会話でその単語を聴いても聴き取れなくなってしまいます。
日本語でも、あの「巨人の星」の主題歌で「♪思いこんだ~ら~」を「♪重いコンダラ~」のように「何だかよくわからんけど、とっても重い”コンダラ”というものを引っ張って練習していたに違いない」と解釈していた人は少なくありませんでした。(私もその一人です)
そのぐらい、曲のメロディには言葉の意味を変えるぐらいのインパクトがあります。
スラングが多い
ヒット曲は大衆に支持された結果であり、当然歌詞にはスラング(俗語)が多く含まれています。
例えば”cool”という単語の意味は一般的には「冷たい、寒い」ですが、スラングとしては「カッコイイ」という意味があります。
“cool”ぐらいであれば割と昔からあるスラングなので広く知られていますが、最近ヒットチャートに出てきた若いバンドやラッパーの歌詞などは、若者の間だけで使われるスラングが多用されていることも多く、外国人が理解するのが難しいです。
古語が出てくる
洋楽の歌詞には、聖書から引用している歌詞も少なくありません。
現代英語ではない言い回しも多く古語が使われていたりします。
例えば、youの古語である”thou”や”thee”は比較的よく目にします。日本語だと「汝(なんじ)」と訳されますね。
聖書などで使われる古語は、英和辞書に載っていないことも多いです。
文法的に間違った表現も多い
曲という制約がある中で歌詞を詰め込んでいるので、文法的におかしな表現も時々出てきます。
しかしそれはネイティブスピーカーが意図的に行っている”間違い”であり、一種の言葉遊びでもあります。
それが歌詞に深みをもたらしたりキャッチーなメロディに一役買ったりするのですが、一方で初心者に取ってみればこれほど読みづらい英文はありません。
「作詞者がわざと間違ってこういう歌詞にしたんだな」と理解できる英語力が必要になります。
歌詞は曲に乗せるために、しばしば意味不明な文章になる
これは日本語の楽曲でもそうですが、楽曲は「イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏、Cメロ、アウトロ」の流れで進行するのが一般的です。
もちろん曲によってはいきなりサビから入る曲もあります。
何を言いたいかというと、曲の進行にはこのような決まり事があるので「Aメロ、Bメロ、サビ」のコードに合うように歌詞を詰め込まなければならないわけです。
制約のある中で歌詞を詰め込むには、不要なところをバッサリ切ったり、あるいは付け足したりしていくうちに、歌詞全体として歌詞の抽象度が高くなりすぎて意味不明な文章になったりします。
歌詞の抽象度が高いほど、受け手側の想像を膨らませてくれる深い詩である、とも言えます。
そもそも詩は言語的に難易度が高い
日本語でもそうなんですが、そもそも詩ってその言語に結構精通していないと読むのが難しいです。
いや、別に単なる事実が述べられてたり、想いがダラダラ書き連ねてあるだけであればさほど難易度は高くありませんが、そんな詩は何も響かないですよね。
しかも歌詞は抽象的な表現が非常に多いです。
売れてる曲の歌詞ってそれなりに練られて書き上げられていますので、主語が思いっきり省かれていたり倒置が多用されたりと、英語初心者が読むにはハードルが高い英文が多いです。
抽象的な表現だからこそ、いろんな人がいろんな解釈で歌詞をとらえられるので、歌詞に自分を重ね合わせたり共感を呼びやすいわけです。
この「抽象的」な表現は主語が曖昧なことが多く、それが初心者が歌詞を読んでも意味を取りづらい原因の一つになっています。
かつては「金髪先生」でも歌詞の和訳に苦労していた
1990年代後半ぐらいに、叫ぶ詩人の会というバンドのボーカリストのドリアン助川氏が、海外の有名バンドを授業形式で紹介する「金髪先生」という深夜番組がありました。
70~80年代のハードロック、パンク、メタル、プログレ、グランジなどジャンルを問わず取り上げるスタイルが好きでよく見ていました。
授業では、その週に取り上げたバンド、アーティストの代表曲(の歌詞)を解説するのですが、曲によってはそのバンドの背景や作詞者の背景(大体はバンドメンバー)を紐解かないと歌詞を解説できないんです。
多少英語をかじった人間であればセンテンス毎に訳すことはできるのですが、それだと歌詞全体の意味が繋がらなくて変な和訳になってしまうところを、ドリアン助川氏はバンドの背景やその曲がリリースされた時代背景を加味して足りない行間を埋めていくのです。
この番組は、このドリアン助川氏の解釈がすごく面白かったんですね。
ときどき洋楽アルバムに変な和訳が付いてたりしますが、恐らくそのバンドのことを深く知らない翻訳者が歌詞をそのまま訳してしまったのでしょう。
プロの翻訳者ですら誤訳するぐらいなのですから、初心者にしてみれば尚のこと難しいです。
まとめ
個人的には、洋楽の歌詞を題材にしてスキルアップできるのは中級者以上じゃないとかなり厳しいと思います。
恐らくTOEIC600点台ではかなり厳しいでしょう。
少なくとも初心者は、洋楽の歌詞を読解することに時間を使うよりは、英語の基礎的な部分、中学英語の文法のおさらいなどに時間を使ったほうが建設的です。
そのため英語初心者は、洋楽は英語学習の息抜きで楽しむ程度に使うなど、勉強と切り離すことをオススメします。
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