仕事で外国人と接するようになって困ったことの一つに、人の名前があります。特に中国と台湾。
欧米人の名前は世界中どこに行っても同じ発音です。固有名詞なので当たり前ですね。
しかし日本のマスメディアは、中国の人名や地名を日本語読みする変な習慣があるため、日本人の多くは中国の著名人の正しい名前や正しい地名を知りません。
雑談で恥をかく
アメリカの半導体ベンダに出張していたときのことです。
ちょうど北朝鮮がミサイル発射を強行した時期で、向こうのエンジニア(アメリカ人、デンマーク人、ロシア人、インド人)とコーヒーブレイクしていたときにその話題になりました。
その話の流れから「今の中国のプレジデントって誰だっけ?」って話になり、
インド人「コキントウ?いや今の中国のプレジデントは確か、フー、何だっけ?えーと、フー…」
ロシア人「フー…、フー、ジンタオじゃなかったっけ!? 確か。」
アメリカ人「そうそう、フージンタオだよ!なんだよお前日本人なのに隣の国のプレジデントを知らねーのか?」
私「いやいやいやいや、知ってたけど”コキントウ”を英語で言うと”フージンタオ”って言うのを知らなかったんだよ」
アメリカ人「じゃあ中国語だと”コキントウ”って言うのかい?」
私「いや、そうじゃなくて日本語読みだと”コキントウ”になるんだ」
アメリカ人「名前は固有名詞だろ。勝手に人の名前変えんなよ!(笑)」
…と、非常に恥ずかしい思いをしたことがあります。
それと同時にわざわざ漢字名を日本語読みしている日本のマスコミに対して怒りを禁じえませんでした。(笑)
当時、私は一日本人(一応)として東アジア情勢は一通り認識しており、簡単な概要は英語で説明できる程度の情報は持っていました。人名を除いては。
とっさに”コキントウ”と言ってしまった私もアホなんですけど、でも当時は本当に日本のマスメディアを恨みましたね。
なんでわざわざ中国人名を日本語読みする必要があるのかと。
英字新聞を読んでいても、中国要人の人名が出てきても日本の報道で知っている人名とリンクしないのは、結構な苦痛です。
中国の地名もそうです。
・北京:ペキン(×) → ベイジン(○)(Beijing)
・南京:ナンキン(×) → ナンジン(○)(Nanjing)
・深セン:シンセン(×) → シェンツェン(○)(Shenzhen)
※香港の北にある経済特区
・高雄:タカオ(×) → カオシュン(○)(Kaohsiung)
まともなのは上海(シャンハイ)、香港(ホンコン)、台北(タイペイ)ぐらいじゃないでしょうか。(もっとあるかも…)
韓国人の名前
一方、韓国人、北朝鮮人の名前はいつの間にか現地読みをそのまま発音するようになりました。
確か以前までの報道では”金大中”を「キンダイチュウ」、”金日成”を「キンニッセイ」と読んでいましたが、今では”李明博”を「イミョンバク」、”朴槿恵”は「パククネ」と現地読みのまま報道するようになりました。
これは、韓国政府からの要望らしいです。
海外での事例
英語名の”マイケル”(michael)はフランス語では”ミシェル”、ドイツ語では”ミヒャエル”、ロシア語では”ミハエル”、イタリア語では”ミケーレ”、ポルトガル語では”ミゲル”と発音されますが、著名人の人名に関してはほぼ現地読みが普通です。
例えば、マイケル・ジャクソンのことをドイツで”ミヒャエル・ジャクソン”とは言わず、英語読みの”マイケル・ジャクソン”が浸透しています。
せめて人名、地名は現地の発音にして欲しい
日本以外では、海外要人や地名はそのまま現地読みのまま報道しますが、日本ではわざわざ国内でしか通用しない読み方に変換して報道するため、中国要人や地名の固有名詞をいちいち調べ直さなきゃならない。これは疲れます。
マスコミはこれからの企業はグローバル化だのなんだの報道するのに、自分自身がグローバル化に逆行していることに気がついていません。
「忠実に現地読みしようとすると、日本語に無い発音があるから」とか、もっともらしい理由も散見されますが、そんなこと言うとヨーロッパやアフリカ系の名前をカタカナで書いてるのもアウトになっちゃいませんか?
現地の発音を完璧に再現する必要は無いと思いますけどね。そこそこ似ていればOKでしょう。
例えば、今の中国の国家主席は”周近平”で、発音は「シー・ジンピン」です。英語だとXi Jinpingですね。
この「シー・ジンピン」は厳密には中国語のピンインの発音とは異なりますが、カタカナで「シージンピン」でも十分通じます。
少なくとも英語で会話するときは「シー・ジンピン」で十分です。
なので「忠実に現地読みしようとすると、日本語に無い発音があるから日本語読みしている」という理由も後付けっぽいですね。
報道機関が中国人名や地名を現地語読みで報道するだけで、英語は出来なくても世界の要人、とりわけお隣の国の要人の名前は世界に通じる固有名詞で知ることが出来ます。
小学校から英語教育をやるよりは、こういった固有名詞を固有名詞のまま報道するほうが国民のグローバル化に寄与すると思いますけどね。
コメント
Maluaさん、こんにちは。「ぞな(Xona)」と申します。
「中国人、韓国人の名前を日本語読みするのを止めて欲しいと心から想う」というMaluaさんのコラムを興味深く拝見しました。
「中国の人名や地名を日本語読みする変な習慣」に関して、私は全く別の角度からの(別の世界からの、と言ってもいいかな?)見方を自分のWebサイトに掲載しています。(http://xona.c.ooco.jp/index.htm → /kij104_cgi.cgi)
一度覗いてみてください。2019/4/17
ぞな さん
コメントありがとうございます!
貴サイトを拝見しまして、当サイトの主張とは別の見方として参考になりました。
中国語圏の方が「大阪」を「ダーバン」、「北海道」を「ベイハイダオ」と呼ぶことに意義を唱えるつもりは毛頭ありませんが、彼らが英語学習を始めると”I’ve never been to ダーバン/リーベン.”と言っても通じず、ダーバンは「オーサカ」、リーベンは「ジャパン」と覚えなければならないことに気づくのではないでしょうか?(それはまさに私が経験したことです)
今後とも本ブログをよろしくお願いします。
Maluaさん、こんにちは。「ぞな(Xona)」です。素早いご返事に大感謝です。
>彼らが英語学習を始めると”I’ve never been to ダーバオ/リーベン.”と言っても通じず、ダーバオは「オーサカ」、リーベンは「ジャパン」と覚えなければならないことに気づくのではないでしょうか?(それはまさに私が経験したことです)
それは仰るとおりです。
英語圏の人達が、「Turun」じゃ”国際的”に通じないから「Torino」と言わなきゃとか,「Ukraineユークレイン」ではなく「Ukrainaウクライナ」なんだ、と呼び方を変更する時代がいつか来るのでしょうか。
こちらこそ、今後とも色々ご教示ください。2019/4/18
ぞな さん
返信ありがとうございます。
英語が事実上の世界公用語となっている以上、マジョリティに引きずられてしまうのはある意味仕方がないことだと思います。
私も固有名詞は「Japan」ではなく「Nippon」だろ、と個人的には思いますが、ただそれは私が日本人だからそう思うだけで、日本人でない英語話者同士が日本について語るときは、すでに定着している「Japan」で事が足りてしまいます。
同様にウクライナに関係無い英語話者同士が、ウクライナの話題に触れるときは「ユークレイン」で十分通じるので、それをわざわざ「ウクライナ」と呼ぼう、という機運にはなりづらいのではないでしょうか?
あるとすればウクライナが公式に「我が国の呼称は”ウクライナ”なので、他言語でも正確に発音して欲しい」とアナウンスするぐらいでしょうか。
今後とも本ブログをよろしくお願いします。
Maluaさん、こんにちは。「ぞな(Xona)」です。
英語話者はウクライナを「ユークレイン」と呼べばいいし、フランス語話者はロンドンを「Londres」と呼べばいいし、日本語話者は習近平を「しゅう・きんぺい」を呼べばいいじゃないか。
最初から私が言いたかったのはそれなんですよ。(http://xona.c.ooco.jp/index.htm → /kij103_cgi.cgi 「現地音尊重」は虫除けスプレー?)を読んでいただけたかと思いますが。
ただ、残念ながら日本語話者は世界の多数派(マジョリティ)とは言えません。常に大型力士が勝つ相撲なんて面白くないのにね(関係ないか)
この話題についてはひとまず置いといて・・・ Maluaさんの 英語学習に関する記事があまりにも面白く、ためになるので夢中で読みすすめているところです。そのうち、私のサイト「ことばの百科店」に何か書くかもしれません。時折ひやかしに来ていただけたら嬉しいです。 2019/4/19
ぞな さん
コメントありがとうございます。
私は英語学習を指南する立場で発信しているので、ぞなさんとは論点が違うのかもしれません。
国内で自国人相手に意思疎通を図るのであれば自国語読みで構わないと思います。
でもマスメディアが人名・固有名刺を現地語読みにしてくれれば、英語学習者は2つの発音を覚えなくても済むのでずいぶん楽になると思うのです。
中国語は英語以上にそうですよね。日本語と同じ単語でも意味が全く違ったりします(例えば「手紙」や「挨拶」とか)から、それらを覚えるのも大変なところに人名・固有名詞も新たに覚えなければならないのですから、せめて人名・固有名詞ぐらいはメディアが普段から現地語読みしてくれていれば、その分学習が楽になると思うのです。
日本はこれから確実に国内市場が縮小して日本人は否が応でも海外に活路を見出すしかなく、英語学習を余儀なくされる人が増えていくでしょう。そういった英語学習者のハードルを下げる意味でも、せめて人名は現地語読みして欲しいと願わずにはいられません。
今後とも、当ブログをよろしくお願いします。