よく「英語より日本語のほうが表現力が豊かだ」と言われます。
例えば、人称代名詞の場合、日本語の”私”、”俺”、”僕”、”あたし”、”わし”、、、他にもありますが、それら全て英語では”I”(アイ)ですよね。
男も女も若者も年寄りも全部”I”です。
また季節に対する表現や「わびさび」を表現する言葉が豊富なことから、「英語より日本語のほうが表現力豊かだ」といわれますが果たしてそうでしょうか?
英語には英語の、日本語には日本語の表現がある
確かにその点だけ見れば日本語のほうがたくさんの言い方があるので表現力豊かと言えますが、それだけをもって言語の表現力が「英語より日本語のほうが上」と言ってしまうのは少々乱暴です。
例えば、日本語で髭(ひげ)にまつわる言い方は、あごひげ、口ひげ、ぐらいですが、英語では
・mustache:鼻下(口上)に生やしたヒゲ
・stubble:短いヒゲ、無精ヒゲ
・whisker:猫のようにぴょんと生えているヒゲ
・sideburns:もみあげを伸ばしたヒゲ
等々、たくさんあります。
日本も戦国時代は髭を蓄えた武将が多かったのですが(織田信長、武田信玄など)、江戸時代に入ると不良旗本を取り締まるために徳川家綱による「大髭禁止令」が発令され、ヒゲ文化が途絶えてしまいます。
一方、西洋では、立派な髭を蓄えるのは男の嗜み、といった風潮があったため、髭にまつわる単語がたくさん存在します。
日本の「わびさび」と同様に、言語には文化的背景によって語彙の厚さが違うのは当然なのです。
表記文字の違い
日本語は表現文字として平仮名、片仮名、漢字の3種類を組み合わせて表現します。
1種類の仮名で表現するよりも短く簡潔に文章を表現できる言語です。
漢字が全く無く、平仮名もしくは片仮名だけで書かれた文章はとても読みづらいですよね。
日本語は同音異義語が多くても漢字を使うことで混同を避けることができ、英語に比べて比較的短い文字数で多くの情報を表現することができる言語です。
それに対して英語はアルファベット26文字のみ組み合わせで全てを表現しなければなりません。
日本語で言えばひらがなだけで表記しているようなものです。
そうなると必然的に単語の数を増やすか、複数の単語を組み合わせて別の意味を持たせる、いわゆるイディオム(慣用句)で表現力を豊かにするしかありません。
イディオム=熟語が表現力を補っている
例えばイディオムの例を挙げてみます。
英語には”fed”という単語がありますが、これははfeedの過去形、過去分詞で「(動物などに)エサを与える」という意味です。feed-fed-fedです。
これが”be fed up with~”という熟語になると「うんざりする」という意味になるんです。
”be fed”は受け身なので直訳すれば「~を食べさせられた」になるんですが、食べさせられ過ぎて「うんざり」しているわけです。
このように英語には動詞+副詞・前置詞などのイディオムが本当にたくさんあります。
これは、日本語の表示文字はひらがな、カタカナ、漢字(常用漢字で約2,000字)を使った表現が可能なのに比べ、英語は表記文字がアルファベット26文字と格段に少ないため、語彙の数やイディオムで表現力を拡げて発展してきたものと思われます。
そのため、ある特定の分野での表現力を比べるのであれば、日本語のほうが表現が豊かだとか英語ののほうが表現が豊かだとか論じることが出来ますが、総合的に見ればどちらの言語も表現力の優劣はさほど変わりません。
英語は単語とイディオムを攻略したものが勝つ
英語は日本語より表記文字の種類が少ないぶん単語やイディオムの種類が多いので、これらをいかに覚えるかがポイントです。
なぜなら、初めて出会った単語やイディオムは、いくら考えても意味を知ることが出来ないから。
もうこれは単に熟語をいくつ知っているかだけの話です。
例えば、”pull over”と言うイディオムは「(車を)側に寄せる、止める」という意味ですが、”pull over”を知らない人がどんなに頑張って想像してもpullとoverから「車を止める」という意味にたどり着くのはまず不可能です。
知らない単語やイディオムに特効薬はありません。地道に覚えていくしかありません。
単語帳やイディオム帳をひたすら暗記するのは苦痛な上に記憶に定着させるのが大変です。
単語は単語そのものを覚えるより、単語帳の例文をつかってイメージで覚えたほうが断然簡単です。
関連記事:
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>>書いて覚えるのは効率が悪い、単語は例文で覚えよう
日本語を覚える外国人は漢字で苦労するように、英語を覚える外国人はイディオムで苦労します。
漢字は象形文字なので、漢字と意味が一致していれば覚えやすいですが、一致していないと我々日本人ですら覚えづらいものです。
例えば「壺」はツボそのものの形から由来しているのでイメージし易いですが、お椀の「椀」なんて実物イメージとリンクさせるのが大変でしょう。しかも茶碗の「碗」とお椀の「椀」の違いを言い出すと、日本人ですらあやふやです。(陶器は”碗”、木製は”椀”)
私はいまだに「萩原さん」と「荻原さん」を読み間違えてしまいます。
日本語ネイティブを40年以上やっているにもかかわらず。(笑)
まとめ
・英語の攻略には単語とイディオムが肝。
・単語は単体で覚えずに、例文をつかってイメージで覚える。
外国人の多くは、「日本語の学習は日本人が言うほど難しくない、漢字を覚えるのが大変だけど」と言います。
実は日本人が思っているほど、日本語の習得は難しくありません。
確かに漢字は常用漢字だけで2000字ありますから、これを覚えるのはかなりハードだと思います。
だからと言って、巷で言われているような「日本人は世界でも難しい言語を話している」とか「日本語は表現が深い言語だ」と考えるのはいささか行き過ぎた思いだと思います。
どの言語も、文化的背景の違いで得手不得手があるのですから。
コメント
僕は日本語の豊かな表現は大切ですが、同時に効率も大事だと思っています。
言語は文化なので「豊かさ・美しさ」と切り離せないのは分かります。
しかし、言語は社会の共通の意思疎通の規格でもあります。
なので、日本語も体系化された方が良いのではないかと思っています。
けれど、今の出版本を見ていると、日本語のシステムを記述した本はありません。
だから、瑣末な表現にこだわって学び難い人が続出するのかもしれません。
日本語 歩く 走る 2種類
英語 ウォーク ジョグ ラン スプリント 4種類
「日本語の表現が豊か」と言うのは、語弊がありますもんね。
ああああ、効率的な日本語の体系を作りたい。
ちくわ部 さん
コメントありがとうございます!
記事に賛同してくださる方がいらっしゃって嬉しいです。
ある一面だけ切り取って「日本語は表現が豊か」と言ってしまうところに違和感があってこの記事を書きました。
確かに「歩く」「走る」もそうですよね。勉強になります。
今後とも本ブログをよろしくお願いします。
いや、映画のセリフとかを聴いてもやっぱり日本語の方が表現力豊かだと思うよ。
日本語だとおしゃれで詩的なセリフでも英語にしたらそのまんまやん。みたいな場面何回も見たし。
らっかせい さん
コメントありがとうございます。
英語にもおしゃれな表現はたくさんありますよ。
先日、会議中の雑談で、世界情勢からISの話に飛んで宗教絡みの話題になったときに”There is an elephant in the room.”と言われたんですね。直訳すると意味が通りませんが、「象」=触れてはいけない話題、タブーと聞いて理解しました。みんな問題だと認識しているけどあえて触れずにいる、という比喩表現です。日本人にとっては全く意味がわかりませんよね、「部屋に象がいる」なんて言われても(笑)。このような言い回しというか慣用句はたくさんあります。
日本語の「へそで茶がわく」とか「一からやり直してこい」を英語にするにしても、直訳じゃ意味が通らないので、意味が通る文章に置き換えるしかありません。それはきっと日本語のニュアンスを含まない味気ない英語で翻訳されるでしょう。同様に”There is an elephant in the room.”も日本語では「おっと、それは…」みたいな感じで、原文のニュアンスを含んだ訳は出来ないと思います。
英語ネイティブで日本語も出来る友人は、らっかせいさんと同じように「この(英語の)セリフの訳がこれ(日本語訳)だと残念だわ~」とよく言ってます。どちらの言語も、慣用句や言い回しには歴史や文化が深く絡むので、どちらの言語が表現力が豊かなのか、甲乙付けがたいと思います。
今後とも当ブログをよろしくお願いします。